fNIRS、脳波と同じだと思っていませんか?光で脳を測るしくみを解き明かす
こんにちは。ZONEです。
「fNIRS」 という言葉、見かけたことはありますか?
エフニルス と読みます。日本語では 「機能的近赤外分光法」 と呼ばれ、近赤外線という目に見えない光を頭に当てて、脳のはたらきを測る方法のことです。
最近この言葉が、研究の世界の外にも出てきました。家庭で使えるヘッドバンド型のデバイスに、脳波(EEG)と並んで fNIRS が載りはじめたからです。
ここで、ひとつ確かめておきたいことがあります。fNIRSも脳波の一種、そう思っていませんか。
実は、この2つが測っているものは別ものです。今回は、光で脳を測るとはどういうことなのかを、順番に見ていきます。
fNIRSって何のことでしょうか

fNIRS は functional near-infrared spectroscopy の略です。
やっていることを一言でいうと、頭に光を当てて、返ってきた光の変化から、脳の血の巡りと酸素の状態を推定する ことです。
額などに、光を出す部分と光を受け取る部分をペアで置きます。出した光の一部は頭のなかで散らばりながら進み、その一部がまた頭皮に戻ってきます。この戻ってきた光を拾います。
もとになった発見は、1977年にさかのぼります。フランス・ヨブシス(Frans F. Jöbsis)が、近赤外光を使えば体を切らずに脳や心臓の酸素の状態を追えることを報告しました。
これが人の脳の活動を調べる道具として本格的に使われはじめたのは、1990年代の前半からです。まだ30年ほどの、比較的新しい方法といえます。
光は頭を通り抜けるのでしょうか

不思議に感じるかもしれません。頭蓋骨があるのに、光が届くのでしょうか。
届きます。ただし、どんな光でもよいわけではありません。
だいたい 700〜900ナノメートル あたりの近赤外光は、水にも組織にも吸収されにくく、体のなかを比較的よく通ります。この帯のことを 「生体の光学的窓」 と呼びます。
そして、この窓のなかでは、血液の色のもとであるヘモグロビンがよく目立ちます。
ポイントは、酸素とくっついたヘモグロビンと、酸素を手放したヘモグロビンとで、光の吸収のしかたが違う ことです。
脳のある場所がはたらくと、そこへ血液が余分に送られ、酸素をたっぷり積んだヘモグロビンが増えます。すると、戻ってくる光の量が変わります。
fNIRS は、この変化を読んでいます。つまり 「その場所がさっきより働いたかどうか」を、血と酸素の側から見ている わけです。
脳波(EEG)とは何が違うのでしょうか

いちばん大きな違いは、測っている対象そのもの です。
脳波(EEG) は、神経細胞が電気で情報をやりとりするときに生まれる電位の変化を、頭皮の電極でそのまま拾います。神経の活動そのものを見ています。
fNIRS は、その活動のあとに起きる血流と酸素の変化を見ています。神経の活動そのものではなく、活動した結果として体が返した反応 を見ている、と言い換えられます。
この違いが、そのまま次の3つの差になります。
① 速さ
脳の電気活動は千分の一秒の単位で動きます。EEGはその速さに追いつけます。いっぽう血流の反応はゆっくりで、活動が起きてから数秒かけて立ち上がり、5秒前後で山を迎えます。fNIRSで見ているのは、この遅れて来る波です。
② 場所
fNIRSは、光を出した場所と受けた場所のあいだを測るので、「どのあたりか」がセンチメートル単位でつかめます。EEGは頭皮の上で電位が広がってしまうため、場所の特定はあまり得意ではありません。
③ 届く深さ
fNIRSが見ているのは、大脳皮質の表面に近いところです。額の裏側にある前頭前野などが主な対象になります。脳の奥深くにある部位には届きません。EEGも同じく、表面の活動が中心です。
どちらが正確なのでしょうか

よく聞かれる質問です。答えは、比べる軸によって入れ替わります。
時間の細かさで比べれば、EEGのほうが圧倒的に速い。場所の分かりやすさで比べれば、fNIRSのほうが素直です。
体の動きへの強さでは、fNIRSに分があります。大きな装置に横たわって動かずにいる必要がなく、座ったまま、人と話しながらでも測れます。この扱いやすさから、赤ちゃんの研究や、2人同時に測って会話中の脳を比べるような研究にも使われてきました。
いっぽうで、fNIRSにも弱点があります。髪の毛の下では光が届きにくく、額まわりが中心になりやすいこと。頭皮そのものの血流の影響を受けやすいこと。そして、血の巡りを見ているぶん、反応が数秒遅れる ことです。
だから研究の世界では、優劣ではなく組み合わせ の話になっていきます。速さのEEGと、場所と代謝のfNIRS。2つを同時に測る研究が積み重ねられてきました。
家庭用のデバイスにも載りはじめています

この流れが、いま家庭用のデバイスにも降りてきています。
ZONEでも取り扱っている Muse S Athena は、EEGとfNIRSの両方を1つのヘッドバンドに載せたモデルです。メーカーは、EEGで「頭の切り替えやすさ」を、fNIRSで前頭前野の酸素の状態を見る、という位置づけで説明しています。
ここで気をつけたいのは、2つ載っているから2倍正確、という話ではない ことです。
見ている角度が増えるだけで、どちらも「脳のなかの気持ち」を直接読んでいるわけではありません。電気の動きと、血と酸素の動き。それぞれの言葉で、同じ時間の脳を別々に語っているだけです。
デバイスごとの違いは 対応デバイス一覧 にまとめています。アプリと専用機の違いについては 脳波アプリと専用デバイスの違い も合わせてどうぞ。
ZONEが脳波を軸にしている理由

ZONEの計測は、いまのところ 脳波(EEG)が軸 です。
理由は単純で、私たちが見たいのが 「その瞬間、切り替わったかどうか」 だからです。
呼吸を変えた瞬間。音が鳴った瞬間。目を閉じた瞬間。人が「あ、変わった」と感じるその一点に、データを重ねたい。数秒遅れて来る反応では、その一致が見えにくくなります。
fNIRSが劣っているという話ではありません。持続的な負荷や回復のような、分単位でゆっくり動くものを見たいときには、むしろ血流側の情報が向いています。
測りたいものが先にあって、道具はあとから決まります。脳波の基本については 脳波の基礎ガイド と 脳波計測のよくある質問 にまとめてあります。
おわりに
fNIRSは、光で血と酸素を見る方法。EEGは、電気で神経の活動そのものを見る方法。
同じ脳を、違う入り口から見ている と考えるのが、いちばん近いように思います。
そして、どちらの数字も「あなたが何を感じたか」までは教えてくれません。脳科学で分かっていることは、まだほんの一部です。
論文のなかの正解より、自分の脳を自分で観察したときの手ざわりのほうが、たいてい役に立ちます。実際に測ってみたい方は、計測イベントのご案内 からどうぞ。
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