スクイーズ、本当に癒しですか?買い続けてしまう脳を解き明かす
こんにちは。ZONEです。
スクイーズ、ご存じでしょうか。
英語の squeeze(ぎゅっと握る)が語源で、ポリウレタンやシリコンでできた、握って楽しむ柔らかいおもちゃのことです。
パンやフルーツ、動物の形をしていて、握るとむにゅっとつぶれて、ゆっくり元に戻る。SNSで**「ミチミチ」「ぷにぷに」**という音とともに流れてくる、あれです。
もともとは子どものおもちゃでしたが、いまは大人の**「最強の癒しグッズ」**として再注目され、ちょっとした社会現象になっています。
そんな人気のスクイーズですが、最近ちょっとした問題が話題になっています。
それが**「スクイーズ依存症」**です。スクイーズを大量に買い込み、カード破産に追い込まれる人もいる、と最近ニュースで話題になっています。
最初に結論をお伝えします。
スクイーズを買い集める時に頭の中で動いているのは「癒し」の回路ではなく、脳の「期待」の回路かもしれません。今回は、その巧みな売られ方と、脳のしくみを、正直に見ていきます。
スクイーズは、どうやって売られているのか

スクイーズの熱狂を語るうえで外せないのが、TikTokのライブ販売です。TikTok Shopは2025年の夏に日本にも本格上陸し、いま雑貨やスクイーズがさかんに売られています。
この売り方には、よくできた仕掛けがいくつも重なっています。
ひとつは、ライブ配信での限定販売です。決まった時間に配信が始まり、「◯個限定」「いまだけ」という形で、その場でしか買えない。数分で売り切れることも珍しくありません。「いま買わないと手に入らない」という焦り(心理学でいうFOMO、取り残される不安)は、衝動的な購入を後押しすることが、ライブコマースの研究でも示されています。
もうひとつが、ライブ開封です。買った人のブラインドボックス(中身が見えない箱)を、配信者が何千・何万人という視聴者の前でその場で開けてくれます。レアな「シークレット」が出れば歓声が上がり、自分の箱がみんなに注目される。買い物が、そのまま参加型のショーになっているんです。
「コンプしたい」の、ほんとうの値段

そしてもうひとつが、次々と出る新作と、ブラインドボックスという形式です。
たとえば1シリーズが「通常12種類とシークレット1種」だとします。1個1,000〜2,000円なら、単品ではそれほど高く感じません。でも「全部そろえたい」と思った瞬間、話が変わります。
中身がランダムなので、集めるほどダブりが増えます。数学的に見積もると、12種類をそろえるには平均で37個ほど買う計算になります(前提を置いたざっくりの目安です)。1個1,500円なら、およそ5〜6万円。さらに封入率の低いシークレットまで狙うと、金額は一気に跳ね上がります。
「1個は安い」のに「全部そろえると高い」。この差が、なかなか止まれない理由のひとつです。
なぜ、開封動画はこんなに伸びるのか

届いた箱を開ける「開封動画」も、この現象を支えています。
YouTubeの公式発表によれば、2023年の約10か月間で、タイトルに「unboxing(開封)」と付いた動画だけで250億回以上再生されたそうです。しかも開封動画は、凝った編集をしなくても伸びやすいジャンルとして知られています。
理由のひとつは、袋を開ける音や握る音が生む、ASMR的な心地よさ。もうひとつは、「何が出るんだろう」という期待と、開いた瞬間の答え合わせ。この小さな期待と解決のくり返しが、見ているだけでも気持ちいい。だから、作る側も見る側も、自然と数が増えていきます。
本当に、癒されているのでしょうか

ここまで見てきて、気づくことがあります。スクイーズは「癒されるおもちゃ」として売られています。でも、その周りにある仕掛けは、どれも「癒し」というより「わくわく」や「焦り」を強めるものばかりなんです。
では、私たちは本当に癒されているのでしょうか。それとも、別の何かを癒しと勘違いしているのでしょうか。ここから少しだけ、脳の話をさせてください。
カギを握るのが、ドーパミンという物質です。以前『快楽物質ドーパミン|報酬系回路をコントロールする方法』でも書きましたが、ドーパミンは、報酬を得たときより、予期したときに強く働きます。「新作が届く」と想像している瞬間、購入ボタンを押す直前、箱を開ける直前。じつは、ここがピークです。手に入れてしまえば、脳はもう次を探し始めています。
しかも、中身が確実なときより、不確実なときのほうが、脳の反応は大きくなりやすい。ブラインドボックスやシークレットは、まさにこの「分からなさ」を利用した形です。ガチャやくじと同じしくみで、消費者調査でも、こうした不確実さが衝動買いにつながりやすいと報告されています(詳しくは『射倖心とは?「不確実な報酬」にハマる仕組み』へ)。
念のためですが、売っている側を悪者にしたい話ではありません。ライブ販売とブラインドボックスの組み合わせは、いまや化粧品でも食品でも使われている、それだけ普遍的で強い手法だ、というだけのことです。
ここで、大事なことに気づきます。スクイーズに触れたときの、あのむにゅっとした感触。これ自体は、副交感神経を優位にしてくれる、本物の癒しだと思います。やわらかく反復的な触覚刺激には、気持ちを落ち着かせる働きがあります。
一方で、「新作が出た」「開始3分で完売」「あの子をお迎えしたい」という瞬間に動いているのは、副交感神経ではなくドーパミン報酬系。こちらは癒しではなく、興奮の回路です。
つまりスクイーズへの執着には、二つの違う神経系が折り重なっています。触れているときの安らぎと、買う前後の高揚。後者を前者だと思い込んでいるあいだ、棚はいっぱいになっていきます。そして「あと1個でコンプリート」という状態は、脳にとって最も気になる状態です。やり残したことほど頭に居座り続ける、という性質があるからです。たとえそろえても、新シリーズが出れば振り出しに戻り、脳は永遠に「あと1個」を追いかけ続けます。
では、どうすればいいのか

我慢しよう、という話ではありません。買うこと自体は否定しなくていい。大事なのは、いま自分がどちらの神経系で触れているのかに気づけるかどうか、だと思います。
- 名前をつける:「あ、いまドーパミンが鳴ってるな」と実況するだけで、前頭前野が動いて衝動が少しゆるみます。
- 24時間おく:欲しいと思ってから一日待つ。翌日にはわりと冷静になっていることが多いです。
- 本物の癒しに置き換える:感触が好きなら、お気に入りの一個だけ手元に。温かいお茶を両手で包む、深呼吸する、でも代わりになります。
- 自分の状態を観察する:買う前と後で、自分の落ち着き具合を測ってみる。「癒されているはず」の自分が、実はまだ興奮したままだった、と気づけることがあります。
推しやコレクションが脳に与える良い面については『推し活と脳科学』のほうに書いたので、あわせてどうぞ。
おわりに
脳科学で分かっていることは、まだ全体のほんの一部です。だから「科学的に正しいからあなたに必ず効く」とは、わたしたちは言いません。
論文の正解より、自分の脳がいまこの瞬間にどう反応しているか。それを観察できることのほうが、たぶんずっと役に立ちます。
棚の上のむちっとした子たちは、相変わらずかわいい。でも今日は、お茶でも淹れて、ひとつだけ手にとってみようと思います。それが「わくわく」なのか「癒し」なのか、確かめながら。
自宅で簡単に脳波計測しながら瞑想。科学的に正しい瞑想で数値化・習慣化。







